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関 集三(旧制3回)

1938年卒旧制3回同期生は19名でしたが、2006年からは、老生唯一人となり、淋しい限りです。老生、昨年春5月に満94才を過ぎました。前年同様、御指示により、その後の新しい身辺の変化を報告させていただきます。さて、現役時代の1975年に提案し、1979年定年退官の折、文部省に認可された熱測定を中心とした研究センターが10年毎に3回の組織変更を経て、昨年30年で終結いたしました。その間の研究成果は、旧制19回生の当時の菅センター長の卓見による"阪大化学熱学レポート"30巻に発表されており、改めてその成果に敬意を表します。御承知のように菅名誉教授は現役時代、Giauque(実験)、Pauling(理論)の2名のノーベル化学者による意見の対立があり(1935-36)、その解決の重要性を指摘したOnsager(理論)の計3名のノーベル化学者の努力にも係わらず、未解決テーマであった「氷(六方晶)結晶の残余エントロピー問題」(*)を、当時の研究グループの研究による"幻の氷"といわれた「氷XI」の発見により半世紀に亘る未解決テーマに終止符を与えた業績、及びその他のガラス性結晶の発見により日本学士院賞(1997)を受けられたことは皆様ご存知の通りです。この研究をふくめ、多くの優れた研究成果は上述した「レポート30巻」に永久保存されました。それらの業績の背景、私共が創設に関与した日本熱測定学会(本年第46回年会)の支援、さらには阪大理学部当局の後援により昨年4月、我国では類例のない標記のセンターが誕生しました。それには新制19回生の、これまでの現センター長稲葉教授の絶大な御尽力により、新しく独立法人化された大学で、"構造熱科学研究センター"が誕生しました。この歴史の発端に関係した老生の感激は一入でありました。皆様の御努力に厚く感謝いたします。回顧すれば恩師仁田先生の「構造とエネルギー」の両輪による結晶化学確立の哲学から、このような歴史的発展が刻まれたと申せましょう。
終わりにのぞみ、老生が上記レポートNo.20 (1999) に記しました、前世紀の巨人科学者アインシュタインの言葉を原語で再録し、併せてこのセンターの発展を祈りつつ結びと致します。

  If you should understand the nature of a substance, but are allowed only one type of measurement to understand it, choose the heat capacity.

(*) この残余エントロピー問題の平易な解説
文献:菅 宏:化学、41、No.8 (1986); 固体物理、41、No.8 (1985)、及び関集三:分子集合の世界、(なにわ塾叢書58、ブレーンセンター刊)(1996)p.194. などを参照されたし。

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